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政策研究会「参議院議員選挙結果と消費税増税」講演録 野党が主張すべき政策示す

2019.11.15

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日本金融財政研究所所長 菊池 英博
【きくち ひでひろ】1936年生まれ。東京大学卒業後、旧東京銀行(現三菱UFJ銀行)入行。国際投融資の企画と推進、銀行経営に従事。ミラノ支店長、豪州東京銀行頭取などを歴任。文京学院大学大学院教授を経て、日本金融財政研究所所長(現職)

 8月24日、菊池英博・日本金融財政研究所所長を招いて行われた政策研究会「参議院議員選挙結果と消費税増税」の講演録を掲載する。(文責:編集部)

自・公の絶対得票率は2割
 今回の選挙結果を振り返ると、自民・公明・維新をあわせた議席は改選前から3議席減らし、3分の2に7議席不足となった。無所属議員のうち3人は改憲派と言われているので、改憲派勢力が3分の2まであと4議席という状況だ。
 注目してほしいのは、絶対得票率だ。投票率に得票率をかけたもので、自民・公明・維新をあわせた絶対得票率は27.5%と、4人に1人しか支持していない。自公の絶対得票率は、22.9%だ。第二次安倍政権発足以後、与党のコアな支持層は国民の2割程度にすぎない。
 しかし、投票率が戦後2番目に低かったことが、与党にプラスに働いている。安倍政権は投票率を上げないように、メディアをコントロールしているように思える。今回の選挙でも選挙期間中、ジャニーズ事務所の騒動を報道し続け、国民の興味を逸らしていた。また、公示後3日目に、「自公優勢」と、全国紙(五大紙)が一斉に報道する。投票しようと考えていた人が投票を諦めてしまうのだ。これは「ショック・ドクトリン」という新自由主義者の手法だ。
消費税「凍結」を争点にすべきだった
 今回の選挙の争点は何だったのか。私は野党が二つの問題について争点化していれば、勝っていたと思っている。
 一つ目は消費税だ。10月の10%への引き上げを前に、「凍結」を強く訴える最後のチャンスだった。立憲民主などの野党は、10%増税は「凍結」と言っていたが、声が小さかった。一方、「廃止」を訴えたのが、れいわ新選組の山本太郎代表で、比例代表で200万票以上を得て、2人が当選した。
 私は消費税は0%にできると思っている。
 97年からの20年間の名目GDPの推移をみると、アメリカやイギリスは2倍、ユーロが1.8倍、ドイツも1.6倍になっているのに、日本だけが0.9倍と実質ゼロ成長だ(図1)。
 安倍政権になってからの実質賃金の推移をみても、1世帯当たりの平均所得は、安倍政権が発足した直前の2012年と比較すると、2018年までの6年間で累計97.9万円、毎年約20万円減少している。
 「消費税の3%増税で消費者物価は2%上昇する」という日銀の試算に従うと、3%増税による負担額は年間約12万円。残りの約8万円は円安による食料品、エネルギー・コスト上昇分の負担である。超金融緩和による円安で輸入物価が上昇した分、国民にしわ寄せがいっているのだ。
法人税引き下げに使われる消費税収
 消費税導入前の88年と2018年の一般会計税収に占める法人税・所得税・消費税の割合を比較すると、36%だった法人税が21%に減少する一方、ゼロだった消費税が30%を占めるようになっている。消費税導入後、消費税収は282兆円増え、法人税収は累計で255兆円のマイナスとなっている。法人税の減収を消費税で補っているということがはっきり分かる(図2)。
 法人税の最高税率は、安倍内閣になってから、7.25%も下がっている。その間、企業の内部留保は、300兆円から446兆円へ146兆円増えた。法人の利益は増えているが、賃金や設備投資に回った金額は微々たるものだ。90年から2012年までの状況を見てみると、配当金や内部留保は3倍に増加しているにもかかわらず、人件費は1.2倍、民間設備投資は0.7倍にとどまり、設備投資も雇用も増えていない(『週刊エコノミスト』、2014年11月4日、関西大学教授・鶴田廣巳氏)。法人税減税でトリクルダウンが起こり、経済が活性化するという効果は全くないことは明らかだ。
 主要国の国税収入全体に占める消費税の割合を見る(表3)。日本では税率が5%のときでも、国税収入全体の24.4%を占めている。税率が8%になると割合は30%程度に増加し、10%になると37%程度まで引き上がるとみられる。
 一方、標準税率が25.0%のスウェーデンの国税収入全体に占める割合は18.5%。イギリスは標準税率17.5%で、割合は21%にとどまっている。この理由は軽減税率の対象が非常に広いことだ。例えばイギリスでは、通勤交通費、食料品、雑誌・書籍、医薬品は税率ゼロ、映画・演劇・コンサートは非課税となっている。「海外の消費税は高い」などと言われるが、実は日本の国民が負担している消費税負担は世界で最も重いのだ。
 日本の対外純資産(純債権)は、300兆円以上ある。アメリカのクリントン大統領は任期中に、大幅な財政赤字を黒字に転換した。法人税と個人所得税を引き上げ、公共投資を増やした。医療施設や鉄道等のインフラを作り、雇用相談所や失業対策の研修所を作ったことが実ったのだ。この実例に学び、日本の莫大な資産を国民のために使うべきだ。
 これらのデータを示し、野党は消費税の凍結を訴えるべきだった。
9条改憲やめ「永世平和国家」宣言を
 二つ目は安全保障政策だ。「戦争か平和か」を争点とすべきだった。
 戦争放棄を謳う憲法9条のおかげで、冷戦下でも日本は戦争に巻き込まれなかった。9条に自衛隊を明記し、緊急事態条項を創設するという自民党の改憲案が通れば、閣議決定した集団的自衛権の行使容認を裏付けることになり、自衛隊を時の首相や内閣の判断で動かすことができるようになる。非常に危機的な状況だ。
 今、中国や韓国など近隣諸国との関係が悪化している。これらの国を軽視し、アメリカとうまくやればいいというのが日本の姿勢のようだが、米中の対日戦略は「日本封じ込め」で、一致している。これは1972年のキッシンジャー・周恩来会談の合意事項で、現在でも変わらない。米中国交正常化を主導したキッシンジャーは、現在でもトランプ政権の外交政策に影響を与えている。
 第二次大戦後、戦勝国にとっての重要課題は、敗戦国(ドイツと日本)の封じ込めだった。「日本封じ込め」政策の基本は、9条と日米同盟で日本を「封じ込める」ことであり、現在も続いている。
 安倍首相は、13年以来、全国戦没者追悼式で加害責任を拒否し、大戦の反省をしない態度は、戦勝国がつくった戦後の国際秩序を乱す行為であり、米国や中国は見過ごさないだろう。実際、トランプ米大統領は、就任後、「リメンバー・パールハーバー」と二度も発言している。
 同じ敗戦国のドイツは「ナチスの被害を受けた国は、被害を絶対に忘れない」という認識のもと、真摯な反省を忘れない姿勢が評価されて、フランスとともにEUの中枢国として機能している。
 野党は集団的自衛権行使容認を否定し、中韓との和解を促進しようと訴えるべきだった。
 日本は国会で「永世平和国家」を宣言し、社会資本の整備を進め、国民の生活を豊かにすること。これこそ、これからの日本のとるべき道だ。

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