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政策解説 歯科の医療材料〝金パラ〟暴騰の非常事態 4月改定も 「逆ザヤ」解消に程遠い 歯科部会

2020.03.15

 歯科治療に欠かせない保険医療材料である金銀パラジウム合金(以下「金パラ」)の価格高騰が続き、歯科医療機関での購入価格が保険償還価格を上回るいわゆる「逆ザヤ」が拡大している。その結果、歯科医師が金パラ高騰による負担を強いられ、保険での治療提供が困難になり、患者にも大きな影響を与えている。しかし、4月改定で告示された保険償還価格も大幅な価格高騰にまったく対応できていない。

保団連実勢調査で大幅な「逆ザヤ」判明
 金パラの高騰を受け、全国保険医団体連合会(保団連)は、金パラの購入価格と保険償還価格との乖離の実態を明らかにすべく、昨年10月より会員医療機関での金パラ購入価格を実勢調査した。
 その結果、歯科医療機関での購入価格が保険償還価格を上回るいわゆる「逆ザヤ」が毎月拡大し、3月の平均購入価格は9万250円まで高騰して、保険償還価格5万250円と比べ4万円もの大幅な乖離が生じていることが明らかとなった(図1)。これは、購入価格の実に4割以上が保険償還されていないこととなる。この調査を元に「逆ザヤ」を試算すると、全国の歯科医療機関での損失額は、2月だけで80億円にも上ると推計される。治療すればするほど歯科医療機関の持ち出しが拡大するという、異常な実態が明らかとなった。
治療に欠かせない歯科材料「金パラ」
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写真 「金パラ」1g(1個) 約3000円に高騰

 一般に「金パラ」と呼ばれている「歯科鋳造用金銀パラジウム合金」(写真)は、「金の含有量が12%以上、パラジウムの含有量が20%以上、銀の含有量が40%以上」(JIS規格)と定められた合金である。金やパラジウムといった価格変動の幅が大きい貴金属を含有しているのが特徴である。
 治療用途は、インレー、クラウン、ブリッジ、クラスプ(図2)など、かぶせ物や義歯などの補綴治療に幅広く使用されている。加工しやすく、十分な強度を有しているため、歯科治療に不可欠な保険医療材料となっている。
投機目的などで高騰する金パラ
 金パラに含有されるパラジウム金属は保険医療材料であるが、ガソリン車の排気ガス浄化用触媒などにも使われる他、貴金属であるため投機対象にもなっている。最近の金パラ価格高騰の理由は、世界的に広がる自動車排ガス規制強化による需要増や、経済の先行き不安から安全資産として投機資金が集中し、購入価格の高騰に歯止めがかからなくなっているからである。
市場価格との乖離を生じやすい価格改定
 冒頭のように保険償還価格と購入価格が大きく乖離したまま放置されているのは、価格高騰の他に、保険償還価格の改定方法にも問題がある。
 厚労省による歯科用貴金属材料の保険償還価格の改定には次の2通りの方法があるが、いずれも購入価格との乖離が生じやすい仕組みとなっている。
(1)基準改定
 診療報酬改定に合わせて実施する「基準材料価格改定」(基準改定)は、厚労省が改定前年に実施する「特定保険医療材料価格調査」をもとに材料価格を決定するもので、今年4月改定の場合、歯科用貴金属の各合金の市場価格は2019年9月の1カ月間を調査し、その後の10~12月の金属素材価格の値動きを考慮して最終決定しているが、この方式では1月以降の急激な高騰は4月改定に反映されない。現に図1に示したように4月改定の告示価格は6万2490円と現行の5万250円より多少改善されるとは言え、「逆ザヤ」の解消には程遠いと言わざるを得ない。また、昨年10月は消費税増税に伴う基準改定が行われたが、これも実態に見合った結果になっていない。
(2)随時改定
 2年に1回の基準改定では価格変動に応じた対応が難しいことから、診療報酬改定後6カ月に1回の見直しを実施する「随時改定」が、保団連などの要望を受けて2000年に導入された。
 しかし、実際に随時改定を行うかどうかは条件がある。厚労省が金属素材価格の変動を勘案した試算価格を示し、現行の告示価格からの変動率を計算し、歯科用金属の変動幅が±5%を超えた場合しか随時改定を実施しない。つまり、素材価格の試算では実際の購入価格を反映しない上、近年は購入価格の高騰スピードが速いので、改定が追いついていない。さらに、素材価格の調査結果や保険償還価格決定のプロセスがブラックボックスになっていることも問題である。
問題の即時解決へ緊急要請を実施
 ここまで、金パラ「逆ザヤ」問題の原因と実態について解説してきたが、そもそも保険診療において必要な医療材料の保険償還価格が購入価格を下回ること自体が異常事態である。治療をすればするほど材料費による損失が生じる状態が放置されていることは、歯科医療機関の経営を圧迫するとともに、国民が受けられる歯科医療の質の確保も困難になりかねない。
 4月の歯科診療報酬改定はプラス0.59%とされているが、「逆ザヤ」が拡大し続けている現状では、歯科医療改善に全くつながらない。
 協会は、兵庫選出の国会議員に対して「逆ザヤ」問題のレクチャーと改善要請を行っているほか、FAX署名を実施。医科会員からも署名が寄せられ、安倍首相、加藤厚労大臣宛に送付した。署名の「私の一言欄」に、医科・歯科ともに即時解消を求める切実な声が上がっている(下記事)ことから、告示後の3月7日に、厚労省に対して金パラ「逆ザヤ」即時解消を求める再度の緊急要請を決定した。
 今後も会員の声を届け、「保険でより良い歯科医療」の実現のために運動を強めていくものである。

図1 歯科材料「金パラ」逆ザヤが急拡大
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図2 補綴治療に幅広く使用される金パラ
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金パラFAX署名に悲痛な声
・「審美的なニーズが低いケースではメタルでの修復の方が安定性、信頼性があるが、現在はレジン修復やTEKなどで一時的にしのいでいる感じ。自分でも納得いかない仕事内容にかなりのストレスを感じる」(宝塚市・歯科)
・「これ以上続けば患者さん第一の診療ができません」(加古川市・歯科)
・「非常事態です。早急な対応を希望します」(尼崎市・歯科)
・「『患者さんにとって最良の治療をしてさし上げたい』と金パラを使用されるたびに、歯科医師の先生方にとって大きなマイナスになることはどう考えても納得できません」(尼崎市・皮膚科)
・「逆ザヤの事態をはじめて知りました。とんでもない話ですね。大きく声を上げましょう」(長田区・内科)
・「材料費の高騰により歯科診療をひどく圧迫し、今後の診療の質の低下を招くことになる」(西宮市・内科)
緊急インタビュー
「9万円で仕入れて5万円で売る状態」
灘区・歯科  鈴田 明彦先生
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金パラの保険償還価格の是正を訴える鈴田先生

 金パラ「逆ザヤ」問題が歯科医療機関にどれほどの影響を及ぼしているのか--。歯科治療の現場に押しつけられている負担の実情について、灘区・鈴田歯科クリニックの鈴田明彦先生にお話を伺った。

 金パラは加工がしやすく歯科治療に不可欠な金属材料です。しかし昨年秋より、特に年明けから、仕入れ価格が高騰し、非常に頭を痛めています。
 例えば、う触(虫歯)治療で、歯の全体を覆う全部金属冠(フルメタルクラウン)を大臼歯(奥歯)に被せるとすると、金パラ代を含む保険上の歯冠修復の点数は1044点(技術料454点、材料代590点)です。しかし、当院にかかる費用は、金パラ代が最低でも3g使うとして約9000円のため、材料代だけで3100円の「持ち出し」です。これに歯科技工所に支払う技工料2530円を加えると人件費も出ないのが実情です。
 複数歯にまたがる「ロングスパンブリッジ」等を作成すると、20g以上の金パラを使用することもあります。そうすると「持ち出し」となる額はさらに膨れ上がります。さらに金パラを溶かしたり形を整えたりする技工の過程で損耗してしまう「のりしろ」部分も考えると、「持ち出し」となっている実際の額はさらに深刻なものになっています。
 例えが飛躍するかもしれないですが、歯科医院は「9万円で仕入れた商品を5万円で売っている店」のような状況です。このような不合理は世間を見渡してもどこにもないのでないでしょうか。
 私は単に「実際にかかった価格で算定できるシステムにしていただきたい」と申し上げているのです。治療するたびに材料費の「持ち出し」が発生するのは、医科の先生方も保険医療としておかしいと同意していただけるはずです。医科・歯科一体で多くの先生方に理解を広げた上で、国や厚労省に速やかな是正を求めたいです。
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