政策宣伝広報委員会だより
特別インタビュー 小児医療充実には診療報酬増が不可欠 県立こども病院 飯島 一誠院長
2024.08.20
【いいじま かづもと】1982年神戸大学医学部卒業後、神戸大学小児科に入局。1989年米国ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校に留学。91年神戸大学附属病院小児科助手・講師、国立成育医療センター腎臓科医長などを経て、2008年神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野特命教授、11年から同教授。2021年より現職
救急・集中治療が大きな強み
森岡 小児科医として、いつもこども病院には患者を受け入れていただき、大変お世話になっています。
西山 まずは病院の特徴を教えてください。
飯島 救命救急医療が非常に高いレベルでできるということです。ER型をとっており、電話がなくても、ウォークインで救急外来を受診する患者さんをすべて診るという体制で、救急外来の患者数は2023年度で1万5千人を超えました。
もう一つ、一般病棟の3分の1を占める小児がんの医療に非常に力を入れています。この二つが当院の大きな柱と思っています。
西山 救急でこれだけの数をすべて受け入れるのは非常にご苦労が大きいでしょう。
飯島 HAT神戸のこども初期急病センターに一次救急をお願いし、必要なら患者を送ってもらうように役割分担しています。
森岡 私も患者にはまずHAT神戸を受診するか、私に電話するよう伝えています。
飯島 地域の病院や開業医の先生方とも役割分担しながら、必要な場合にはお迎え搬送ができる体制を最近、スタートしました。
救急救命士を雇い10分もあれば救急車を出動させ、動かせない小児患者を迎えに行けますので利用いただけたらと思います。
また、集中治療室も力のあるスタッフのおかげで充実しており、日本ナンバーワンではと自負しています。そのため、若い医師も集まってきています。厳しいのは周産期医療です。なかなかなり手がおらず、余裕がない状態です。教育をしっかりしてくれるスタッフがいるので、年に1~2人来てくれ、何とか維持できていますが、大学から医師を送ってくださいと要請しても難しい状態です。
森岡 専門医養成機関でもあり、ご苦労が大きいでしょうね。周産期ももちろんですし、小児科は子どもを総合的に診ることのできる医師の育成が重要だと思います。
飯島 ええ。当院は救命救急センターも総合診療科も集中治療科もあり、小児の総合診療が経験でき、学べる施設と思っています。ただ、総合診療科は学位をとることが難しいなど、モチベーションを保つのが大変で大きな課題です。
救急患者の半数程度は感染を伴っているので、来年度から新しい試みとして感染症科と総合診療科を一体化しようとしています。感染症がしっかり診れるならば若い人も集まってきやすいと考えています。
移行期医療や精神フォロー課題
飯島 移行期医療に関して、日本は非常に遅れていると思います。腎臓など分野によっては比較的うまくいっていますが、難しいのは心臓病などの先天性疾患です。当院の患者の半数以上は先天性心疾患ですが、成人内科系の先生では経験のない疾患が圧倒的に多いので、連携を深めていかなければなりません。
森岡 医療技術が上がって、患者の予後が改善していることによる新しい課題ですね。また、増えている自殺も問題と思います。
飯島 うつなどの精神的疾患の拡大は非常に大きな課題です。実は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の成育疾患のプログラムオフィサーをさせていただいていますが、アメリカでは20歳までは、年に1回はかかりつけ医を受診して30分程度話をするなど、精神的問題についてもフォローする体制があります。日本はそのような体制がなく、何とかしなければならないと思っています。先生のような一般病院の先生にフォローいただけるようになればと思います。
小児科の診療報酬もっと引き上げを
森岡 地域の中小病院では、医師不足に加え、採算が取れないため小児科が次々と閉鎖され、厳しい状況が進んでいます。そんななか、県内の小児医療体制についてはどうお考えでしょうか。飯島 当病院に専攻医として来てくれる医師には、豊岡や丹波、淡路など県内各地の神戸大学の関連病院を半年交代で回ってもらっています。小児科医の配置については、関連病院などと話し合いながらすすめていて、小児の地域医療を守ることができていると思っています。
森岡 私としては、さらに子どもの生活圏に近い、中小病院の小児科まで充実させられないかと感じます。
飯島 当院では、政策医療として県などの行政から予算がついていますが、それでも非常に採算は厳しい状態ですので、中小病院では、かなり難しいでしょう。本来は診療報酬で採算がとれて運営できるべきです。
当院は290床に対し、医師数約200人、看護師は600人、職員全部あわせると1000人規模です。小児科は人手が必要で、医療DX、効率化といっても限界があります。
森岡 全く仰る通りです。採血一つとっても、大人とは全然違い、血管が細くおとなしくしてくれませんので、マンパワーが必要です。それなのに診療報酬上の評価が同じでは割に合いません。
飯島 診療報酬をもっと上げてもらわないといけないと思います。日本の医療費は安すぎます。
森岡 子どもは常に成長し日々変化しますので、普段からの親への指導も含めて、十分な評価が必要と思います。
飯島 小児こそ予防医学が大事と考えていますが、日本では予防には保険が適用されません。一見健常な子どもを定期的にフォローしていくことが、これから重要になってくると思います。そういう医療保険制度にしないと、安心して子育てができず、少子化も止められないと思います。
西山 国は子育て施策を重要視すると言うのにどうして進まないのでしょう。
飯島 予防医学の重要性を認識していないのでしょう。また、日本の企業は大きな利益を得ているのに、諸外国に比較して寄付が少ないと思います。目先の利益にとらわれない活動に寄付するような社会になってほしいです。
西山 保険医協会では、国民医療充実のため、医師を増やし、診療報酬を増やすことを求めており、現在、医師増員を求める署名に取り組んでいます。
飯島 医師数は世界的に見ても、まだまだ足りないと思います。協力します。
西山 ありがとうございます。病院の今後のビジョンについてお伺いします。
飯島 2024年4月からドクタージェットのパイロット事業に参画しています。国内では北海道以外導入されておらず、基幹病院から遠い地域の人が高度医療を受けられないという状況があります。ヘリと比べて、走行距離も長く、夜間も飛行でき、悪天候にも強く、機体内での医療行為の幅も拡がります。今はクラウドファンディングで進めていますが、国家事業にしてほしいと思います。
西山 最後に、保険医協会にご入会いただき、期待する活動などご意見をいただければと思います。
飯島 昨年末に突然、共同指導が入った際、院内で講演していただくなど大変お世話になりました。指導などへのサポートは大変ありがたく思っています。
西山 ありがとうございます。他にも勤務医向けライフプランセミナーの開催協力など、さまざまなサポートを行っていますので、今後ともよろしくお願いします。