政策宣伝広報委員会だより
特集 総選挙 政策座談会
軍拡ではなく社会保障充実の政治を実現しよう
2024.10.15
10月27日、投開票が予定されている総選挙にあたって、政策・運動・広報委員会では10月9日、これまでの国政を、医療政策を中心に振り返るとともに、主要な政党の公約等について議論した。司会は武村義人副理事長。参加者は、西山裕康理事長、宮武博明副理事長、木原章雄・坂口智計両理事、川西敏雄参与。
追い込まれた岸田政権
武村 岸田前首相が自民党総裁選への立候補を断念し、石破茂氏が総裁に就任し、首相となった。まず、岸田前首相の政権投げ出しから議論したい。
西山 やはり国民世論に追いこまれたのだと思う。振り返ってみると、安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、自民党との密接な関係が次々と明るみに出た高額献金などで批判を浴びる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件、物価高騰による国民の生活苦に対する経済政策の無策ぶり、そして、私たちが反対する健康保険証の廃止など、いずれもが国民の厳しい批判にさらされ、政権末期は支持率も低迷していた。このままでは、次の選挙で勝てないと踏んだのだろう。
川西 その後行われた総裁選の模様は連日報道され、一政党の党首選という位置づけを大きく超え、事実上の自民党の宣伝になってしまっていた。
木原 総裁選の内容もひどいものだった。石破新首相も含め、候補者は口々に、「選択的夫婦別姓の実現」「軍拡増税はしない」「金融所得課税の見直し」「政策活動費の廃止」「学校給食無償化」などと主張したが、これまでの自民党の政策とは全く相いれないもので、国民受けを狙ったものでしかない。
川西 みんな自民党の要職を占めているのだから、やろうと思えばできたはずだ。国民を愚弄しているとも言える。
武村 社会保障分野でも同じだ。各候補は、討論会で今の社会保障は国民にとって高負担だと口々に述べていたし、石破新首相や林芳正官房長官は健康保険証廃止の延期を掲げた。
木原 そもそも、患者の窓口負担や保険料を増やしてきたのも、保険証の廃止を決めたのも自民党政権だ。
坂口 就任早々、本性が現れてきた。石破新首相は、総裁選挙では、「すぐ解散はしない」と述べ、臨時国会で予算委員会を開き、政治資金問題を中心に野党との議論を十分に行った後に解散する考えを示していた。しかし実際には、戦後最短となる首相就任8日後の衆院解散を決めた。
西山 政策のブレもひどい。保険証廃止について、総裁選挙では、石破新首相は「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば、(マイナカードと保険証の)併用も選択肢として当然だ」「一部の人々に不便や不利益を与えないような配慮をしながらやっていきたい」と述べていたが、衆院本会議の代表質問で、「現行の健康保険証の新規発行終了につきましては、法に定められたスケジュールにより進めていきます」と明言した。また、富裕層に対して「(株式の売却益などへの金融所得課税の強化について)それは実行したい。お金持ちが本当に(日本の)外に出て行ってしまうのかという議論を詰めていかなければいけない」と意欲を示していた。しかし、こちらも衆院本会議の代表質問で、「現時点で、具体的に検討することは考えていない」と答弁した。
川西 裏金問題への対応もブレた。総裁選挙では「最終的に公認するのは総裁だ。党として(公認した理由を)選挙区の方々に説明できなければならない」としたが、一時は、公認にあたり裏金問題の有無を考慮しない方針を固めた。その後、世論の強い反発を受けて12人の「裏金議員」の非公認を発表したが、結局は30人以上を公認している。兵庫県の衆議院議員では、西村康稔氏、末松信介氏、関芳弘氏の3人が自民党の処分を受けたが、非公認は西村氏のみだ。しかも石破新首相は、裏金議員であっても選挙区で有権者の支持を得て勝ち上がれば「みそぎ」となるとの考えを示している。しかし、そもそも「裏金」は政治資金規正法違反(虚偽記載)で、脱税も疑われる犯罪であり、選挙に出ることが許されるのかが問われる問題だ。国民のほうを向いた議員選びではなく、自民党内の権力闘争のための選別に過ぎない。
宮武 今次診療報酬改定は全体でマイナスだった上、特定疾患療養管理料から3疾患を外し、それに代わる生活習慣病管理料で定型の療養計画書の作成を義務付け、10月からは長期収載医薬品の選定療養が開始されるなど、財務省主導の恣意的な根拠で医科診療所を狙い撃ちにし、歯科診療所や病院に対してもその点数算定を複雑にし、日常診療での負担が非常に大きくなっている。早急な改善が必要だ。
木原 賃上げのためとして「ベースアップ評価料」が新設されたものの、対象職種が限定されており、事務作業も煩雑な上、次回改定でどうなるかも分からない。他産業との賃金格差を縮めるためにも賃上げを行いたいが、そのためには初再診料や入院基本料などの基本診療料をアップするべきだ。
川西 石破新首相は、総裁就任時の会見で「個人消費が上がっていかなければ、経済は良くならない」「将来不安があるとお金があったら貯めておきたいという心理になる」「医療、年金、介護等々に対する不安を払拭していく」と至極まっとうなことを述べている。医療や社会保障を充実させて、将来負担を払しょくすることで、結果として経済の好循環をつくり出すことができるというのは私たちの考え方にも通じるところがある。問題は本当にそうした政策が実行されるのかということだ。
木原 期待できないのではないだろうか。政府はすでに「後期高齢者の窓口3割負担(「現役並み所得」)の判断基準の見直し等については、...検討を進める」とする「高齢社会対策大綱」を今年、9月13日に閣議決定しているし、高額療養費制度の上限額引き上げや要介護1.2の人を対象にした介護保険外し、一定の金融所得のある人に対する医療・介護の負担増などがすでに計画されている。石破新首相がそれらを撤回するとは考えられない。
武村 先ほども話が出たが、健康保険証の廃止についても、新首相はスケジュール通り進めるとしている。国民や医療関係者が疑問や不安を感じている保険証の廃止に政府がここまでこだわるのは、真の目的として政官財の巨大な利権があると考えざるを得ない。
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)からマイナンバー関連事業で313件2810億円という巨額の発注を受けたNTTデータ、凸版印刷、日本電気、日立製作所、富士通の5社が、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に2013~21年の9年間に合計7億円を献金していたことが明らかになっているし、マイナンバー制度の中核システム「情報提供ネットワークシステム」を内閣府から123億1200万円で受注した富士通はじめ、日立製作所、NEC、NTTデータの4社が「国民政治協会」に2014年から21年までの8年間で5億8000万円を献金していたことも明らかになっている。表に出ているだけでこれだけの献金が行われているのだから、個人経由のパーティー券購入など問題になっている裏金の原資の一部もこれらの企業から流れていると考えて間違いないだろう(図1)。
川西 新聞や協会のアンケートで多くの国民、医療・介護・福祉関係者がいったん立ち止まることを求めているのにもかかわらず、保険証廃止にこだわる背景には財界の要求がある。実際に、経済同友会の新浪剛史代表幹事は、あたかも経済界から政府へのビジネス発注のように「廃止の『納期』を守れ」と公言していた。
西山 財界の言動はひどい。今年度の診療報酬改定でも、日本経団連等は「令和6年度診療報酬改定に関する要請」で、「患者の負担増や保険料の上昇に直結する安易な診療報酬の引き上げを行う環境にはない」と患者負担や保険料負担の増加を理由に政府に診療報酬マイナス改定を要求していた。
しかし、一方で、日本経団連は2019年の「全世代型社会保障検討会議」で75歳以上の窓口負担の2倍化や外来受診時の自己負担に上乗せする「定額負担」の導入に賛成していた。診療報酬改定の議論の際にだけ、患者負担軽減を持ち出すのは矛盾している。結局、大企業の要求は、自らが負担する保険料(の事業主負担分)を軽減しろということだけだと思う。
木原 今日まで続く「失われた30年」の間、政権与党は大企業の要求通り労働者の賃金を抑制するために終身雇用や年功賃金を中心とする日本的雇用を見直し、派遣労働の対象分野を拡大するとともに1990年以来16.8ポイントもの法人税を減税し、消費税増税で穴埋めをしてきた。結果、働く人の賃金は低迷する一方で、大企業には莫大な使い途のないお金である内部留保が滞留、株主配当や役員報酬だけが増えるという経済状況が固定化してしまった(図2)。目先の利益を追いかけた大企業の政策提言とそれに従った自公政権の政策が経済を停滞させたにもかかわらず、いまだにその路線に執着しているために、国民をより不幸にする状況が続くのではないか。
武村 経済政策にも話が及んできた。石破新政権の経済政策はどうなるのだろう。
坂口 今、国民生活は物価高とそれに全く見合わない低賃金で本当に厳しい状況になっている。医療機関を含む中小企業への補助金や国民の可処分所得の増加や消費活性化のために消費税減税などが必要だと思うが、石破首相は「岸田政権が取り組んできたことを引き継ぎ、実現が早まるべく努力したい」と述べるだけで、何の具体策もない。消費税については、「税率の引き下げは考えていない」とし、増税についても「党税調で議論する」と否定していない。
木原 その通りだ。総裁選では高市早苗氏とその座を争い、高市氏が極めて右翼的で、アジア太平洋戦争を侵略戦争と位置付けた村山談話を否定し、自衛戦争だと言ってはばからず、日本による台湾や朝鮮支配を植民地支配でないとする特殊な世界観を持つため、石破氏になってよかったと少し安心している人もいるが、石破新首相も9条改憲を政治家の原点とするタカ派であるということを忘れてはいけない。
新首相は、中国、ロシア、北朝鮮を念頭に軍事的対抗力を強化するため「アジア版NATO」の創設を主張し、米軍の核兵器の「共有」、「核持ち込み」等も認めるとしている。NATOは集団的自衛権を行使し、軍事作戦を展開する多国間同盟だ。これに倣えば、集団的自衛権行使が全面的に容認され、加盟国にはアジア地域での戦争に自動的に参戦する義務が発生するきわめて危険な政策だ。
さらに、石破新首相は以前国会で「徴兵制が憲法違反であるということには、私は意に反した奴隷的な苦役だとは思いませんので、そのような議論にはどうしても賛成しかねる...」と発言しており、現行憲法の下でも徴兵は可能だと、歴代自民党の憲法解釈や憲法学界の通説すら覆す、異常な考え方を持っている。
こうした政策が実現すれば、日本は世界有数の軍事国家になってしまうし、それを支える軍事費も今とは比較にならないほど膨大なものとなるだろう。
西山 すでに、岸田政権下で、23~27年度の5年間で43兆円の防衛予算を確保することが決まっており、国立病院機構や地域医療機能推進機構(JCHO)の積立金1500億円のうち、半分の約750億円が国庫に返納させられ、病院経営を悪化させている。
さらに「歳出改革」として、医療・社会保障費が抑制される可能性が高い。周辺諸国の戦争に参加するために、医療機関の積立金まで返納させ、国民の健康と命を守っている医療機関を窮地に追いやることは、命と健康を守る私たちは決して容認できない。
西山 野党第一党である立憲民主党の医療政策には、問題があるのではないか。
野田佳彦新代表は、家庭医制度に言及し、かかりつけ医を登録制にするといっている。かかりつけ医の制度化はこれまで、何度も政府内で議論されてきた。その狙いは医療費抑制であり、総合的な診療能力を持つ医師を認定し、ゲートキーパー役として、病院や専門医への患者アクセスを制限することと、診療報酬の出来高払いから人頭払いへの移行を目指すものだ。かかりつけ医の機能や役割の議論は必要だが、立憲民主党の狙いは定かではなく、政府、財務省、財界の医療費抑制政策と親和性があり、利用される危険性も高い。そういった意味では、安易な政策であり、とても医療界では受け入れられないのではないか。
木原 他にも、立憲民主党は公約に私たちが求める消費税減税を盛り込むことができなかったし、何よりも結党の原点であり、野党共闘の一致点であった安保法制の廃止を野田代表が「すぐにはしない」としてしまった。これでは、野党共闘は成立しないだろう。
川西 立憲民主党には、国民の命と健康を重視する医療政策、生活を守り消費を活性化する消費税減税、安保法制の廃止をこれまで通り掲げて選挙戦に臨んでほしかった。
宮武 選挙になれば各党、各候補とも有権者に聞こえの良い政策を並べる。しかし、財源には制約がある。必要なのは応能負担を徹底して財源を確保することだと思う。高齢者でも、かなりの所得や資産を持っている人もいる。そうした人が、保険料の上限の低さから負担が少なく、一般高齢者のほうが負担率が高くなるという現行の制度は問題だ。また、保険料を払うことができない中小零細企業がある一方で、大企業には内部留保が積みあがっている。大企業や富裕層の応分の負担強化で社会保障の充実を主張している政党や候補に注目したい。
坂口 同様に重要なのは税金の使い道に関心を持つことだと思う。総裁選挙では、河野太郎氏が、全国民が確定申告をするべきだと述べた。かなりの批判を受けたが、欧米では当然のことで、だからこそ、税金の使われ方や政治に国民が関心を持っているともいわれる。実際に、確定申告を全国民に行わせるのは非現実的かもしれないが、事業主の負担が軽減されるし、国民が税金の使い道を考えるいい機会になるだろう。
川西 政治家の質は有権者の質の反映であるといわれる。今回の選挙で裏金議員、旧統一教会との関係を持つ議員を当選させるようなことがあれば、「みそぎ」を容認し、裏金で私腹を肥やす政治家や、一般家庭を崩壊にまで追い込むカルト的宗教団体と関係を持つ政治家を肯定することになってしまう。これらのことを投票日まで忘れずに、投票先を考えてほしい。
西山 投票に行っても政治は変わらないという人もいる。しかし、「投票に行かないから政治が変わらない」というのが現実だろう。政治家は投票しない人への政策には力が抜けがちだ。ぜひ、投票に行って、私たちの思い描く政治を実現しよう。
武村 今日はどうもありがとう。
追い込まれた岸田政権
石破新首相は看板のかけ替えに過ぎない
西山 やはり国民世論に追いこまれたのだと思う。振り返ってみると、安倍晋三元首相の銃撃事件を機に、自民党との密接な関係が次々と明るみに出た高額献金などで批判を浴びる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題、自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件、物価高騰による国民の生活苦に対する経済政策の無策ぶり、そして、私たちが反対する健康保険証の廃止など、いずれもが国民の厳しい批判にさらされ、政権末期は支持率も低迷していた。このままでは、次の選挙で勝てないと踏んだのだろう。
川西 その後行われた総裁選の模様は連日報道され、一政党の党首選という位置づけを大きく超え、事実上の自民党の宣伝になってしまっていた。
木原 総裁選の内容もひどいものだった。石破新首相も含め、候補者は口々に、「選択的夫婦別姓の実現」「軍拡増税はしない」「金融所得課税の見直し」「政策活動費の廃止」「学校給食無償化」などと主張したが、これまでの自民党の政策とは全く相いれないもので、国民受けを狙ったものでしかない。
川西 みんな自民党の要職を占めているのだから、やろうと思えばできたはずだ。国民を愚弄しているとも言える。
武村 社会保障分野でも同じだ。各候補は、討論会で今の社会保障は国民にとって高負担だと口々に述べていたし、石破新首相や林芳正官房長官は健康保険証廃止の延期を掲げた。
木原 そもそも、患者の窓口負担や保険料を増やしてきたのも、保険証の廃止を決めたのも自民党政権だ。
坂口 就任早々、本性が現れてきた。石破新首相は、総裁選挙では、「すぐ解散はしない」と述べ、臨時国会で予算委員会を開き、政治資金問題を中心に野党との議論を十分に行った後に解散する考えを示していた。しかし実際には、戦後最短となる首相就任8日後の衆院解散を決めた。
西山 政策のブレもひどい。保険証廃止について、総裁選挙では、石破新首相は「期限が来ても納得しない人がいっぱいいれば、(マイナカードと保険証の)併用も選択肢として当然だ」「一部の人々に不便や不利益を与えないような配慮をしながらやっていきたい」と述べていたが、衆院本会議の代表質問で、「現行の健康保険証の新規発行終了につきましては、法に定められたスケジュールにより進めていきます」と明言した。また、富裕層に対して「(株式の売却益などへの金融所得課税の強化について)それは実行したい。お金持ちが本当に(日本の)外に出て行ってしまうのかという議論を詰めていかなければいけない」と意欲を示していた。しかし、こちらも衆院本会議の代表質問で、「現時点で、具体的に検討することは考えていない」と答弁した。
川西 裏金問題への対応もブレた。総裁選挙では「最終的に公認するのは総裁だ。党として(公認した理由を)選挙区の方々に説明できなければならない」としたが、一時は、公認にあたり裏金問題の有無を考慮しない方針を固めた。その後、世論の強い反発を受けて12人の「裏金議員」の非公認を発表したが、結局は30人以上を公認している。兵庫県の衆議院議員では、西村康稔氏、末松信介氏、関芳弘氏の3人が自民党の処分を受けたが、非公認は西村氏のみだ。しかも石破新首相は、裏金議員であっても選挙区で有権者の支持を得て勝ち上がれば「みそぎ」となるとの考えを示している。しかし、そもそも「裏金」は政治資金規正法違反(虚偽記載)で、脱税も疑われる犯罪であり、選挙に出ることが許されるのかが問われる問題だ。国民のほうを向いた議員選びではなく、自民党内の権力闘争のための選別に過ぎない。
石破政権でも続く社会保障改悪
武村 さて、次に社会保障政策について掘り下げたい。宮武 今次診療報酬改定は全体でマイナスだった上、特定疾患療養管理料から3疾患を外し、それに代わる生活習慣病管理料で定型の療養計画書の作成を義務付け、10月からは長期収載医薬品の選定療養が開始されるなど、財務省主導の恣意的な根拠で医科診療所を狙い撃ちにし、歯科診療所や病院に対してもその点数算定を複雑にし、日常診療での負担が非常に大きくなっている。早急な改善が必要だ。
木原 賃上げのためとして「ベースアップ評価料」が新設されたものの、対象職種が限定されており、事務作業も煩雑な上、次回改定でどうなるかも分からない。他産業との賃金格差を縮めるためにも賃上げを行いたいが、そのためには初再診料や入院基本料などの基本診療料をアップするべきだ。
川西 石破新首相は、総裁就任時の会見で「個人消費が上がっていかなければ、経済は良くならない」「将来不安があるとお金があったら貯めておきたいという心理になる」「医療、年金、介護等々に対する不安を払拭していく」と至極まっとうなことを述べている。医療や社会保障を充実させて、将来負担を払しょくすることで、結果として経済の好循環をつくり出すことができるというのは私たちの考え方にも通じるところがある。問題は本当にそうした政策が実行されるのかということだ。
木原 期待できないのではないだろうか。政府はすでに「後期高齢者の窓口3割負担(「現役並み所得」)の判断基準の見直し等については、...検討を進める」とする「高齢社会対策大綱」を今年、9月13日に閣議決定しているし、高額療養費制度の上限額引き上げや要介護1.2の人を対象にした介護保険外し、一定の金融所得のある人に対する医療・介護の負担増などがすでに計画されている。石破新首相がそれらを撤回するとは考えられない。
司会 武村 義人 副理事長
宮武 博明 副理事長
木原 章雄 理事
財界による政策買収に対抗しよう
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)からマイナンバー関連事業で313件2810億円という巨額の発注を受けたNTTデータ、凸版印刷、日本電気、日立製作所、富士通の5社が、自民党の政治資金団体「国民政治協会」に2013~21年の9年間に合計7億円を献金していたことが明らかになっているし、マイナンバー制度の中核システム「情報提供ネットワークシステム」を内閣府から123億1200万円で受注した富士通はじめ、日立製作所、NEC、NTTデータの4社が「国民政治協会」に2014年から21年までの8年間で5億8000万円を献金していたことも明らかになっている。表に出ているだけでこれだけの献金が行われているのだから、個人経由のパーティー券購入など問題になっている裏金の原資の一部もこれらの企業から流れていると考えて間違いないだろう(図1)。
川西 新聞や協会のアンケートで多くの国民、医療・介護・福祉関係者がいったん立ち止まることを求めているのにもかかわらず、保険証廃止にこだわる背景には財界の要求がある。実際に、経済同友会の新浪剛史代表幹事は、あたかも経済界から政府へのビジネス発注のように「廃止の『納期』を守れ」と公言していた。
西山 財界の言動はひどい。今年度の診療報酬改定でも、日本経団連等は「令和6年度診療報酬改定に関する要請」で、「患者の負担増や保険料の上昇に直結する安易な診療報酬の引き上げを行う環境にはない」と患者負担や保険料負担の増加を理由に政府に診療報酬マイナス改定を要求していた。
しかし、一方で、日本経団連は2019年の「全世代型社会保障検討会議」で75歳以上の窓口負担の2倍化や外来受診時の自己負担に上乗せする「定額負担」の導入に賛成していた。診療報酬改定の議論の際にだけ、患者負担軽減を持ち出すのは矛盾している。結局、大企業の要求は、自らが負担する保険料(の事業主負担分)を軽減しろということだけだと思う。
木原 今日まで続く「失われた30年」の間、政権与党は大企業の要求通り労働者の賃金を抑制するために終身雇用や年功賃金を中心とする日本的雇用を見直し、派遣労働の対象分野を拡大するとともに1990年以来16.8ポイントもの法人税を減税し、消費税増税で穴埋めをしてきた。結果、働く人の賃金は低迷する一方で、大企業には莫大な使い途のないお金である内部留保が滞留、株主配当や役員報酬だけが増えるという経済状況が固定化してしまった(図2)。目先の利益を追いかけた大企業の政策提言とそれに従った自公政権の政策が経済を停滞させたにもかかわらず、いまだにその路線に執着しているために、国民をより不幸にする状況が続くのではないか。
武村 経済政策にも話が及んできた。石破新政権の経済政策はどうなるのだろう。
坂口 今、国民生活は物価高とそれに全く見合わない低賃金で本当に厳しい状況になっている。医療機関を含む中小企業への補助金や国民の可処分所得の増加や消費活性化のために消費税減税などが必要だと思うが、石破首相は「岸田政権が取り組んできたことを引き継ぎ、実現が早まるべく努力したい」と述べるだけで、何の具体策もない。消費税については、「税率の引き下げは考えていない」とし、増税についても「党税調で議論する」と否定していない。
さらに進む日本の軍事大国化
武村 もう一点、経済政策や社会保障政策とも密接に関係するが、石破内閣の下で、さらに防衛費が増やされ、増税や社会保障費の抑制に拍車がかかるのではないかと危惧している。木原 その通りだ。総裁選では高市早苗氏とその座を争い、高市氏が極めて右翼的で、アジア太平洋戦争を侵略戦争と位置付けた村山談話を否定し、自衛戦争だと言ってはばからず、日本による台湾や朝鮮支配を植民地支配でないとする特殊な世界観を持つため、石破氏になってよかったと少し安心している人もいるが、石破新首相も9条改憲を政治家の原点とするタカ派であるということを忘れてはいけない。
新首相は、中国、ロシア、北朝鮮を念頭に軍事的対抗力を強化するため「アジア版NATO」の創設を主張し、米軍の核兵器の「共有」、「核持ち込み」等も認めるとしている。NATOは集団的自衛権を行使し、軍事作戦を展開する多国間同盟だ。これに倣えば、集団的自衛権行使が全面的に容認され、加盟国にはアジア地域での戦争に自動的に参戦する義務が発生するきわめて危険な政策だ。
さらに、石破新首相は以前国会で「徴兵制が憲法違反であるということには、私は意に反した奴隷的な苦役だとは思いませんので、そのような議論にはどうしても賛成しかねる...」と発言しており、現行憲法の下でも徴兵は可能だと、歴代自民党の憲法解釈や憲法学界の通説すら覆す、異常な考え方を持っている。
こうした政策が実現すれば、日本は世界有数の軍事国家になってしまうし、それを支える軍事費も今とは比較にならないほど膨大なものとなるだろう。
西山 すでに、岸田政権下で、23~27年度の5年間で43兆円の防衛予算を確保することが決まっており、国立病院機構や地域医療機能推進機構(JCHO)の積立金1500億円のうち、半分の約750億円が国庫に返納させられ、病院経営を悪化させている。
さらに「歳出改革」として、医療・社会保障費が抑制される可能性が高い。周辺諸国の戦争に参加するために、医療機関の積立金まで返納させ、国民の健康と命を守っている医療機関を窮地に追いやることは、命と健康を守る私たちは決して容認できない。
危うい立憲民主党の政策
武村 これまで石破政権の政策について検討してきたが、他党の政策はどうだろうか。西山 野党第一党である立憲民主党の医療政策には、問題があるのではないか。
野田佳彦新代表は、家庭医制度に言及し、かかりつけ医を登録制にするといっている。かかりつけ医の制度化はこれまで、何度も政府内で議論されてきた。その狙いは医療費抑制であり、総合的な診療能力を持つ医師を認定し、ゲートキーパー役として、病院や専門医への患者アクセスを制限することと、診療報酬の出来高払いから人頭払いへの移行を目指すものだ。かかりつけ医の機能や役割の議論は必要だが、立憲民主党の狙いは定かではなく、政府、財務省、財界の医療費抑制政策と親和性があり、利用される危険性も高い。そういった意味では、安易な政策であり、とても医療界では受け入れられないのではないか。
木原 他にも、立憲民主党は公約に私たちが求める消費税減税を盛り込むことができなかったし、何よりも結党の原点であり、野党共闘の一致点であった安保法制の廃止を野田代表が「すぐにはしない」としてしまった。これでは、野党共闘は成立しないだろう。
川西 立憲民主党には、国民の命と健康を重視する医療政策、生活を守り消費を活性化する消費税減税、安保法制の廃止をこれまで通り掲げて選挙戦に臨んでほしかった。
投票へ行こう!
武村 最後に会員へのメッセージを。宮武 選挙になれば各党、各候補とも有権者に聞こえの良い政策を並べる。しかし、財源には制約がある。必要なのは応能負担を徹底して財源を確保することだと思う。高齢者でも、かなりの所得や資産を持っている人もいる。そうした人が、保険料の上限の低さから負担が少なく、一般高齢者のほうが負担率が高くなるという現行の制度は問題だ。また、保険料を払うことができない中小零細企業がある一方で、大企業には内部留保が積みあがっている。大企業や富裕層の応分の負担強化で社会保障の充実を主張している政党や候補に注目したい。
坂口 同様に重要なのは税金の使い道に関心を持つことだと思う。総裁選挙では、河野太郎氏が、全国民が確定申告をするべきだと述べた。かなりの批判を受けたが、欧米では当然のことで、だからこそ、税金の使われ方や政治に国民が関心を持っているともいわれる。実際に、確定申告を全国民に行わせるのは非現実的かもしれないが、事業主の負担が軽減されるし、国民が税金の使い道を考えるいい機会になるだろう。
川西 政治家の質は有権者の質の反映であるといわれる。今回の選挙で裏金議員、旧統一教会との関係を持つ議員を当選させるようなことがあれば、「みそぎ」を容認し、裏金で私腹を肥やす政治家や、一般家庭を崩壊にまで追い込むカルト的宗教団体と関係を持つ政治家を肯定することになってしまう。これらのことを投票日まで忘れずに、投票先を考えてほしい。
西山 投票に行っても政治は変わらないという人もいる。しかし、「投票に行かないから政治が変わらない」というのが現実だろう。政治家は投票しない人への政策には力が抜けがちだ。ぜひ、投票に行って、私たちの思い描く政治を実現しよう。
武村 今日はどうもありがとう。
図1 マイナンバー制度をめぐる政官財癒着の構図
図2 大企業諸指数の推移