薬科部だより
薬科部11月研究会「糖尿病や慢性腎不全をいかにイメージしてとらえるか?~可能となる薬剤の適正使用~」ご案内
2010.11.27
薬科部研究会「糖尿病や慢性腎不全をいかにイメージしてとらえるか?~可能となる薬剤の適正使用~」
日 時 11月27日(土)午後4時~6時
会 場 兵庫県農業会館11階111号 (JR「元町駅」南へ徒歩7分)
講 師 松山 賢治 先生(近畿大学薬学部 教授)
参加費 1,000円
病態や薬の理解に際して、文章を暗記する左脳だけではなく、イメージとして捉える右脳を使うことが大変重要です。本日は、糖尿病と腎不全について、いままでの病態と薬物の知識といったステレオタイプのお話でなく、物理化学の式、化学反応などを活用して病気を理解したいと考えます。例えば、腎不全で、何故、代謝性アシドーシスになるか?それは、腎の内皮細胞で、二酸化炭素と水を材料として炭酸脱水酵素により炭酸が合成され、血液中には、塩基成分の重炭酸イオン[ HCO3-] を出し、尿中には水素イオンを出します。HCO3-は、生体内で有機酸を中和しますが、腎不全では、それがうまくいかずに代謝性アシドーシスを呈します。因みに、尿は、水素イオンが正常な時ほど供給されないので、酸性からアルカリ性に変わります。生体のpHが、酸性に変わると、生体内の酵素反応において、至適pHがずれてきて緊急事態が発生します。そうすると生体のフィードバック機構により、緊急に塩基成分のハイドロキシアパタイトが骨から水酸イオンとして供給されます。腎不全では、骨が脆くなるのはそのためです。一方、腎不全のアシドーシスは、細胞と血液間において、細胞内のカリウムと血液内の水素イオンを交換する系を促進して、その結果、高カリウム血症になります。ここでは炭酸に関する解離式をもとに物理化学的知識が、腎不全の病態を大変良く説明してくれます。
一方、糖尿病において、過血糖が何故、恐ろしいかと言いますと、糖のアルデヒド部分が、生体内ペプチドの塩基性アミノ酸部分(あらゆる蛋白や酵素、免疫細胞などにペプチド構成アミノ酸として存在)と、化学反応でいうシッフ塩基を形成、その後、アマドリ転移を経て、糖が蛋白などに共有結合してしまいます。ヘモグロビンに結合したものはHbA1Cですね。高脂血症のLDLもリポ蛋白で、糖が結合して、糖化LDLとなりますが、これは酸化LDLよりもマクロファージに嗿食されやすくなるので、アテロームを形成しやすくなります。このため、糖尿病でかつ高脂血症というのは最小血管病を起こしやすくなり、糖尿病性網膜障害、糖尿病性腎症が起き易くなるのです。さらに、好中球など免疫担当細胞も糖化されると免疫能力が著しく低下して、糖尿病では感染症にかかりやすくなります。高齢者が肺炎でなくなっておられるのをよく見ますが、その背景には糖尿病があって、抵抗力が低下し、緑膿菌感染しやすくなり、院内肺炎でお亡くなりなるケースがほとんどです。糖尿病の諸疾患も、アミノ基とアルデヒドによるシッフ塩基形成という基礎薬学(化学反応)が関連しております。
上記の観点から糖尿病と腎不全について述べてみたいと思います。【松山 記】
お問い合わせは協会事務局 石本・山田までTEL078-393-1817