兵庫県保険医協会

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毎日新聞社説「働かせ過ぎの勤務医開業医との格差をただせ」に意見書

2019.05.15

 協会は、毎日新聞社説「働かせ過ぎの勤務医 開業医との格差をただせ」に対し、勤務医の長時間労働は医師不足が原因であり、開業医との格差是正が問題の本質ではないなどの主旨の意見書を、第1092回理事会で採択した。意見書を毎日新聞社に送付したところ、後日、毎日新聞論説委員の野澤和弘氏より返事が届いた。意見書の全文と野澤氏からの返事の概要を掲載する。

毎日新聞への意見書(全文)
 貴紙は3月29日付紙面で「働かせ過ぎの勤務医 開業医との格差をただせ」と題する社説を掲載しました。
 社説では「医師の働き方改革に関する検討会」が取りまとめた「報告書」について「常識から外れた長時間残業の容認と言わざるを得ない」とありますが、この認識は私たちのこれまでの主張と一致します。
 一方で「病院の勤務医が不足しているのは、開業医に比べて仕事はきついのに待遇が良くないからでもある」とし、「決まった時間だけ働いて往診をしない開業医は多い」と述べています。しかし、病院の勤務医が不足し、待遇が悪い根本原因は、国策による医師の絶対数不足と低診療報酬です。日本の医師数はOECD平均と比べて12万人不足しています。少ない医師数と低い診療報酬で医療制度を維持しようとしたために、長期にわたり長時間労働が放置されてきたのです。
 また、平成29年度の医療施設調査によれば9万4269の無床診療所のうち、3万3287施設が往診や在宅診療を行っていることが明らかになっています。この無床診療所数の中には、在宅医療を行わない専門科も含まれていることを考えれば、相当程度の診療所が往診や在宅医療に取り組んでいると言えます。
 さらに、日医総研の「在宅医療の提供と連携に関する実態調査」では、地域で在宅医療がいっそう充実するために必要な項目として、回答者の6割近くが「緊急時の入院・入所受け入れ病床の確保」と回答しており、在宅医療の推進には地域の病院が必要であることが分かります。一方、このような状況にもかかわらず、患者が望む標榜科の開業医が不足し、訪問診療はおろか、外来診療も病院に頼らざるを得ない地域も少なくありません。勤務医の長時間労働の是正とともに、在宅医療や休日・夜間診療の充実を求めるのであれば、勤務医、開業医が共にこれまで以上に積極的に取り組めるように、診療報酬体系等の改善を行うよう国に求めるべきです。
 また、社説では「勤務医が過労死ラインを超えて残業しても、年収はこうした開業医よりはるかに低い」としています。確かに、医療経済実態調査によれば、個人立の無床診療所の損益差額2887万円に対し、一般病院の医師の給与総額は1488万円と約2倍の開きがありますが、無床診療所はその損益差額から、設備投資のための資金積立や開業資金の借入金返済などを行わなければなりません。平均年齢も、病院に従事する医師は46.7歳、診療所は59.6歳と大きな差があります。そもそも、医院経営を担う事業主である開業医と、給与所得者である勤務医とを単純に比較し、その所得の多寡を議論すること自体が無意味であることはご理解いただけると思います。
 社説では「必要がなくても休日や夜間に訪れる患者も多い」「患者に適切な受診を働きかける方策が必要」とありますが、患者自身に受診の「必要性」や「適切性」を求めることは、受診の遅れや病態の悪化を招きかねず、患者窓口負担増加と同様に、患者の受診抑制を伴うような政策は行うべきではありません。
 診療所と病院の地域医療における役割は異なり、それぞれが有機的に連携し患者のニーズに応えています。「開業医が往診し」「格差をただせば」、「常識から外れた(勤務医の)長時間残業」が無くなり、「(勤務医の)待遇がよくなり」「勤務医不足が解消する」と思わせるよう根拠の乏しい論調は、多くの読者をミスリードし、記事の信頼性を損ないかねません。
 私たちは、病院勤務医の長時間労働改善のためには、勤務医の待遇改善を可能とする診療報酬の大幅引き上げと、医師数の増強が必要だと考えています。
 以上の点を踏まえ、貴紙には冷静で客観的な報道を期待します。
以上
野澤論説委員からの返事(概要)
 貴会のご指摘のように、この社説は厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」のとりまとめた報告書について「常識から外れた長時間残業の容認」であることを指摘したものです。
 大規模病院に患者が集中しないためには、地域の開業医の「かかりつけ医」としての役割は極めて重要であると認識しております。昨年2月8日の社説「24時間安心の地域医療を」では「高齢化が進み、複数の持病がある患者は増えている。地域で1人の患者を総合的に診療できるかかりつけ医を増やし、介護サービスと連携して生活を支える医療へと転換しなければならない」などと主張しました。
 その一方、「ビル診」などの中には往診などをしないところもあります。社説ではこうした問題を指摘したものであり、もとより開業医全体を批判する意図は私にはありません。むしろ「かかりつけ医」が拡充することにより、勤務医の長時間労働の改善が図られると考えております。
 (中略)貴会ご指摘のように、患者の受診抑制リスクには十分に配慮しなければならないと考えていますが、患者側の受診のあり方を見直すことも必要だと思います。(中略)社会保障費の増加を抑制しつつ、貴重な医療資源をどう守るか国民全体で考えていかねばならないと思います。
 いただいたご意見を参考に、今後の報道に生かして参ります。今後ともどうぞご意見・ご指導よろしくお願いします。
毎日新聞・論説委員 野澤和弘