医学者・医師・歯科医師の皆様へ
5000万人の命を奪った第2次世界大戦の反省から「日本は戦争をしない国になる」との決意をこめて、平和憲法が制定されました。
ところが戦後64年を経ようとしている今、この憲法を変えようとの動きが強まっています。
憲法を変えようとする人たちは、日本を「戦争する国」にすることを狙っていますが、「生命と健康を守る」医師の使命と、もっとも、矛盾するのが戦争です。憲法9条の「戦争の放棄」と、25条の「生存権」は一体となって、国民に「平和に生きる権利」と「国がその下での生活保障を行う」ことを定めています。この「平和的生存権」というべき国民の権利を守ることは、医師の「社会的責任」と言えるのではないでしょうか。いまこそ私たち医師が、戦争をしない最大の保障である平和憲法を守るために、一人ひとりができることを考え、行動するときがきています。
さきに大江健三郎氏・加藤周一氏などが憲法「九条の会」を結成し、「平和憲法をまもろう」とアピールを発表し、各分野でこの賛同を広げる取り組みが進んでいます。医師の分野でも、全国27人の医師・医学者の呼びかけを受けて、各地で取り組みが始まっていますが、兵庫県でも「九条の会アピールに賛同する兵庫県医師・歯科医師・医学者の会」(略称「九条の会・兵庫県医師の会」)を結成し、この賛同を広げたいと思います。
「九条の会」アピール
日本国憲法は、いま、大きな試練にさらされています。
ヒロシマ・ナガサキの原爆にいたる残虐な兵器によって、五千万を越える人命を奪った第二次世界大戦。この戦争から、世界の市民は、国際紛争の解決のためであっても、武力を使うことを選択肢にすべきではないという教訓を導きだしました。
侵略戦争をしつづけることで、この戦争に多大な責任を負った日本は、戦争放棄と戦力を持たないことを規定した九条を含む憲法を制定し、こうした世界の市民の意思を実現しようと決心しました。
しかるに憲法制定から半世紀以上を経たいま、九条を中心に日本国憲法を「改正」しようとする動きが、かつてない規模と強さで台頭しています。その意図は、日本を、アメリカに従って「戦争をする国」に変えるところにあります。そのために、集団的自衛権の容認、自衛隊の海外派兵と武力の行使など、憲法上の拘束を実際上破ってきています。また、非核三原則や武器輸出の禁止などの重要施策を無きものにしようとしています。そして、子どもたちを「戦争をする国」を担う者にするために、教育基本法をも変えようとしています。これは、日本国憲法が実現しようとしてきた、武力によらない紛争解決をめざす国の在り方を根本的に転換し、軍事優先の国家へ向かう道を歩むものです。私たちは、この転換を許すことはできません。
アメリカのイラク攻撃と占領の泥沼状態は、紛争の武力による解決が、いかに非現実的であるかを、日々明らかにしています。なにより武力の行使は、その国と地域の民衆の生活と幸福を奪うことでしかありません。一九九〇年代以降の地域紛争への大国による軍事介入も、紛争の有効な解決にはつながりませんでした。だからこそ、東南アジアやヨーロッパ等では、紛争を、外交と話し合いによって解決するための、地域的枠組みを作る努力が強められています。
二〇世紀の教訓をふまえ、二一世紀の進路が問われているいま、あらためて憲法九条を外交の基本にすえることの大切さがはっきりしてきています。相手国が歓迎しない自衛隊の派兵を「国際貢献」などと言うのは、思い上がりでしかありません。
憲法九条に基づき、アジアをはじめとする諸国民との友好と協力関係を発展させ、アメリカとの軍事同盟だけを優先する外交を転換し、世界の歴史の流れに、自主性を発揮して現実的にかかわっていくことが求められています。憲法九条をもつこの国だからこそ、相手国の立場を尊重した、平和的外交と、経済、文化、科学技術などの面からの協力ができるのです。
私たちは、平和を求める世界の市民と手をつなぐために、あらためて憲法九条を激動する世界に輝かせたいと考えます。そのためには、この国の主権者である国民一人ひとりが、九条を持つ日本国憲法を、自分のものとして選び直し、日々行使していくことが必要です。それは、国の未来の在り方に対する、主権者の責任です。日本と世界の平和な未来のために、日本国憲法を守るという一点で手をつなぎ、「改憲」のくわだてを阻むため、一人ひとりができる、あらゆる努力を、いますぐ始めることを訴えます。
2004年6月10日
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